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はまさか日記~澄風荘しょうふうそう~

兵庫県浜坂温泉・カニソムリエの宿・澄風荘の主人・スタッフが、但馬の文化や歴史、山陰海岸ジオパークのPR、浜坂の四季折々の魅力をお伝えしていきます。

カニを茹でると赤くなる理由 アスタキサンチンの抗酸化作用

かにソムリエの勉強日記 かにソムリエ

紅ガニ(ベニズワイガニ)の初競りが9月5日朝、兵庫県香美町の香住漁港で行われました。紅ガニは兵庫県では香住でのみ水揚げされています。

※ちなみに松葉かにの解禁は11月6日です。 

 

紅ガニ(紅ズワイガニ・香住ガニ)は松葉かにと比べると身は小さいですがみずみずしく、値段も松葉かにの1/10~1/7ほどと安価でお手頃なカニです。

松葉かにも茹でると赤くなるのですが、紅ガニはその名の通り茹でる前から赤い色をしています。

なぜ紅ガニは赤いのか

紅ガニの赤も茹でた松葉かにや他の甲殻類(エビなど)鮭の身が赤いのも,「アスタキサンチン」という天然色素カロテノイドに由来します。トマトのリコピンやβカロテンもカロテノイドです。

カニはアスタキサンチンを自己生成できませんが、アスタキサンチンをつくる藻やプランクトンを捕食することで食物連鎖で蓄積されます。

 

紅ガニは水深800~2,000mの深海に生息しています。一方松葉かに(ズワイガニ)は水深約200m~400mの日本海の大陸棚に生息しています。松葉かにが普段から赤い体をしていると目立って攻撃されやすくなります。そのため、アスタキサンチンはタンパク質(オボルビン、クラスタシアニン)と結合し、青灰色を呈するカロテノプロテインとして存在しています。

表1 紅ガニ(ベニズワイガニ)と松葉かに(ズワイガニ)の違い

学名ズワイガニ Chionoecetes opilioベニズワイガニ C. japonicus Rathbun
ブランド名 松葉かに、柴山かに、越前かに 香住ガニ 紅ガニ
生息域 日本海の大陸棚 水深約200m~400m 日本海の深海 水深約500m~2500m

松葉かにやエビは茹でると加熱によりタンパク質が変性し、アスタキサンチンが遊離しオレンジ~赤色を呈します。

茹で蟹 松葉ガニと若松葉ガニ

左は茹でる前の松葉かに、右は茹でた若松葉かに

紅ガニは深海に生息し、光が届かないため赤色を識別できません。赤色を隠す必要がないためタンパク質と結合せずアスタキサンチンはそのままで存在しています。

そのため、紅ガニは最初から赤いのです。

アスタキサンチンの化学的性質

アスタキサンチン カロテノイドの分子構造 共役系

「アスタキサンチン」はその抗酸化作用が注目され、化粧品から健康食品にまで応用されており、よく耳にするのではないでしょうか。

アスタキサンチンが赤い色を呈するのも、抗酸化作用を有するのも、その分子構造に由来します。

アスタキサンチンの分子構造

図1 アスタキサンチンの分子構造

単結合と二重結合が交互に分子骨格にそってのびる長い共役二重結合は、反応性に富んだπ電子により抗酸化作用(還元作用)を有します。

また、ある物質が色を呈するのは物質が吸収した波長の光以外の光を反射しているからです。

赤く見える物質は青と緑の光を吸収し赤の光を反射するので、赤く見えるのです。

共役 π 電子系が長くなるにつれ、長波長(低エネルギー)の光子を吸収し(=長波長シフト)、化合物は黄色から赤色を呈します。

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cf.色素 - Wikipedia

そもそも酸化還元とは

「活性酸素」「抗酸化」という言葉もよく耳にすると思うんですが、ここで簡単に酸化とはどういうものなのか、酸化還元反応の基本的な定義について説明します。

「酸化とは、電子を失うこと」であり、「還元とは、電子を得ること」です。

狭い定義では「酸化とは酸素を得ること」ですが実際は「酸素を得るに伴い電子を失っています。

言葉の定義として「酸化剤は相手を酸化し自身は還元される=電子をもらう」、「還元剤は相手を還元し自身は酸化される=電子を与える」と理解してください。

ここでは簡単に、活性酸素を強力な酸化剤と考えてください。

酸化還元反応

図2 酸化還元反応

共役二重結合のπ電子は自由に局在化し反応性に飛んでおり電子供与性を有しています。つまり還元作用をもっています。

このπ電子が生体の酸化ストレスの原因となる活性酸素種(ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドアニオン、過酸化水素、一重項酸素)を還元させ無害化することで抗酸化作用を示すのです。アスタキサンチンは一重項酸素の消去能や脂質過酸化の抑制に優れています。

アスタキサンチン含むカロテノイドと活性酸素の詳しい反応機構はこちら↓を参照。

http://www.jsb.gr.jp/fcn/FCN.02_01.pdf

活性酸素とアスタキサンチンの抗酸化作用

アスタキサンチンは両端に親水性のヒドロキシル基(-OH)をもち、細胞膜の二重脂質層の中に取り込まれ、細胞膜の内部と膜表面の両側で広く抗酸化作用を発揮することができます。

 

アスタキサンチンと細胞膜

図3 適当に描いた細胞膜の二重脂質層とアスタキサンチンの図

活性酸素は悪者というイメージが蔓延していますが、本来は生体内で必要な働きをしています。免疫において異物として侵入した病原体を攻撃する殺菌作用に重要な役割も果たしています。しかしながら、量が増えすぎると、細胞にダメージを与えてしまいます。

 

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図4 アスタキサンチンの抗酸化作用 引用:活性酸素を消去する抗酸化成分アスタキサンチン|富士フイルム ヘルスケア未来研究所より

活性酸素については上の富士フィルムのサイトにわかりやすい解説がありますので、どうぞ。

富士フィルムは松田聖子さんがイメージキャラクターを務められている、アスタキサンチン配合のアンチエイジング化粧品「アスタリフト」を開発していますね。 

富士フイルムの独自技術|アスタリフトブランドサイト

 

紅ガニも松葉かにも山陰の大切な資源です。「茹でると赤くなる」という身近な現象も化学的な性質に由来し、アンチエイジングや抗酸化物質として注目されている「アスタキサンチン」に関係すると知ると興味が広がりますね。

かにソムリエもかにの美味しさだけでなく、生物としての性質や、生化学的な性質について知り、多用な生態系の中で生きる生物資源としての「かに」を理解する必要があります。日々勉強していきたいものです。

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 松葉かにと紅ガニの生物学的なちがい

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