まんじりともしない長い夜が更けて六日の早朝、「花ちゃん今帰ったよ」と、言う夫文太郎の弱々しい声を花子さんは微睡みの中で聞きました。 「元気か?あんたさえ元気ならそれでいい」「ああ、やっと無事に帰ってきてくれた」と、思った途端、隣に寝ていた登…
1.国宝的山の猛者槍に消える 昭和11年の年が明けると、神戸の街は2日から降り続いて大変大雪の正月を迎えていました。 結婚一年足らずの加藤花子さんは、生後二ヶ月にもならない乳飲み子を抱え、不安な日々を送っていたのです。 それは、年末の29日か…
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