糟糠の妻
著名な演歌歌手の事務所が社長と専務を解任したことで、テレビのワイドショウー
や週刊誌がかしましい。
長年、辛苦を共にしてきた中での仲違いは、当然、格好のマスコミの餌食になるだろう。
ところで、最近の芸能界は、歳の差結婚が大流行で、無名時代から長年連れ添ったパートナーと分かれて、若くて新しい伴侶を選ぶ傾向にあるようだ。
後漢書の宋弘伝に「糟糠の妻」の話がある。
後漢を興した光武帝のなかの錚々たる家臣の中に、その創業に尽くした大司空の宋弘はなかなかの
美丈夫であった。
光武帝の姉で、未亡人になっている湖陽公主が彼に惚れ込んだ。しかし宋弘には妻がいて、いく
ら光武帝でも「姉を娶って欲しい」とは言い切れない。まさか主君の姉を側室にするわけにいかないだろうから、これは正妻ということになる。
つまりは、いまの妻を捨てざるを得ない。
光武帝は湖陽公主を隣室によんでおいて、宋弘に訊ねた。
「世間では裕福になったら人との交わりを変え、身分が高くなったら妻を替えるなどというが、貴公はどう思うか」
光武帝が姉の湖陽公主のことをほのめかしていることは、宋弘にもすぐにわかった。
皇帝の姉を娶って縁戚になれば、これからの栄達は約束されたようなものだ。
しかし、宋弘は毅然として答えた。
「私は富んでも貧しくても人との交わり方は変えてもならず、糟糠の妻は捨てたりしてはならぬと考えております。」
写真は米糠のお漬物