はまさか日記~澄風荘しょうふうそう~

兵庫県浜坂温泉・カニソムリエの宿・澄風荘の主人・スタッフが、但馬の文化や歴史、山陰海岸ジオパークのPR、浜坂の四季折々の魅力をお伝えしていきます。

ホタルイカはなぜ光る?―ルシフェリンと生物発光の仕組み

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今年は浜坂漁港のホタルイカ漁が順調なようで、昨年より早くホタルイカ漁が本格的に始まっています。

但馬の港に春訪れ 浜坂漁港でホタルイカ漁本格化 | 日本海新聞 Net Nihonkai

ホタルイカは昔は「まついか」(富山)「こいか」と呼ばれていました。ホタルのように光ることから、明治38年に生物学者渡瀬庄三郎が和名「ホタルイカ」と命名しました。その後、ホタルイカの学名は渡瀬氏の名前にちなみ「Watacenia sintillans(ワタセニア・シンティランス)」と命名されました。

ホタルイカの発光は発熱を伴わず光が生み出されることから冷光ともいわれています。まだ未知なところも多いホタルイカの発光について化学的な観点も交えて書いてみます。

ルシフェリン―生物発光の”光の素”

ホタルやクラゲなど光る生物は人々の興味をとらえ昔から研究されていました。生物の発光が科学的に研究され始めたのは、19世紀のことで1885 年フランス人研究者デュボア(Dubois)は発光生物の中には「光の素(ルシフェリンLuciferin)」と「光の素を発光させる化学反応を触媒する酵素(ルシフェラーゼ Luciferase)」があることを明らかにしました。ホタルやクラゲなど生物発光の元となる物質を総称で「ルシフェリン」と言います。

総称であることが注意点でルシフェリンは個々の生物によって構造は異なり、違う物質です。ですがその発光する仕組みには似た共通点があります。

ルシフェリンと生物発光の仕組み

ルシフェリンはルシフェラーゼという酵素によって酸化され、蛍光性を持つ励起状態の酸化物(オキシルシフェリン)が発光体となり,それが基底状態に戻る際に光を発します。このルシフェリン-ルシフェラーゼ反応が生物の発光の基本の一つです。ただしオワンクラゲなど別の機序で発光する仕組みをもつ生物もいます。

※励起状態とは原子や分子などの粒子が外部よりエネルギーを得て定常より高いエネルギーを持つ状態です。高いエネルギーの状態は不安定なのでエネルギーを放出しエネルギーの低い安定した基底状態に戻ります。”水は高きから低きに流れる”と言えばイメージしやすいでしょうか。不安定な励起状態から安定した基底状態へ戻る過程で余分なエネルギーが光として放出され発光します。

犯罪捜査の血痕の検出に使われるルミノールという物質は、ルシフェリンと似た構造を持っています。ルミノールは過酸化水素と反応し血液中の鉄成分(ヘモグロビンなど)が触媒として働き酸化され、青い蛍光の化学発光します。

ルシフェリンとGFPの発光機序の違い

ルシフェリンは2008年ノーベル化学賞を受賞した下村脩氏が発見したGFP(緑色蛍光タンパク質 )とよく混同されますが、発光の仕組みが違います。下村脩氏も最初はオワンクラゲの発光物質のルシフェリンを同定しようと探していました。

しかしながらオワンクラゲの蛍光・発光の原理はルシフェリンとは全く違っていました。細胞内のカルシウムの濃度を感知して発光するイクオリンというタンパク質が青色に光るとともに、その青色光のエネルギーがGFPに移動しGFPは緑色に蛍光します。

GFPはルシフェリンのように酵素を必要とせず単体で紫外線などの励起光の照射だけで発光することから、細胞内のシグナル伝達や遺伝子発現を調べる研究にレポーター遺伝子として利用されています。生体内の化学反応に影響せず蛍光緑色でマーカーとして標識できるのでバイオ系の研究では欠かせないものになっています。

ホタルイカのルシフェリン

ホタルイカの発光の仕組みは完全にはまだわかっていません。ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応によることはわかっており、ホタルイカのルシフェリンはセレンテラジンジサルファイト化合物であると考えられています。ですがセレンテラジンジサルファイト化合物が不安定なためその反応機構を解明することは困難なようです。

三重大学の寺西克倫教授はホタルイカの発光に関連するタンパク質を安定化させるのに成功し、またそれはイクオリンの構造とも似ていることから、下村脩氏と共同でホタルイカの発光機構を解明する研究をされています。

寺西教授の報告ではセレンテラジンジサルファイトフィド(セレンテラジンの硫酸化物)がホタルイカの発光基質でセレンテラミドジサルファイトが発光体の正体だそうです。

セレンテラミドジサルファイト

セレンテラミドジサルファイト 図引用:生物発光の発光発現機構の化学的解明 科研報告書

セレンテラジンジサルファイトフィド(発光基質)→セレンテラミドジサルファイト(発光体)

この反応機構の詳細はわかっていません。

ちなみにセレンテラジンはイクオリンの発光分子で、カルシウムと結合し発光します。

asahi.com(朝日新聞社):光のナゾ今も追求 下村さん、ホタルイカ共同研究 - ノーベル賞

ホタルイカはなぜ光る?

ホタルイカの身投げ

そもそもホタルイカはなんのために光るのでしょうか?富山のほたるいかミュージアムのサイトによると以下の3つの理由が挙げられています。

  • 光で身を守る
  • 光で身を隠す
  • 光で会話する

ホタルイカは外敵から逃げる際に光ることで驚かして逃げる時間を稼いだり、囮として目眩ましに使っていると考えられています。またホタルイカの眼は青、水色、緑の3種の色を識別でき、個体同士のコミュニケーションに使われているという説もあります。

幻想的で美しいホタルイカの発光ですが、まだまだ未知の謎が残されているところも魅力的ですね。

ホタルイカは兵庫県や富山県でよく水揚げされています

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ホタルイカの発光の仕組みについて書いてきましたが、ホタルイカの魅力と言えばやっぱり、その美味しさですよね(笑)ホタルイカには申し訳ないですが…

富山湾沿のホタルイカ群遊海面は幻想的で美しく、春の風物詩として有名です。兵庫県の浜坂漁港は実は水揚げ高は全国一位で、京阪神の飲食店にもたくさん出荷されています。

4月2日には浜坂漁港で『第19回浜坂みなとほたるいか祭り』も開催され、澄風荘では3月26日~5月末までホタルイカ釜揚げプランもございます。

blog.syofuso.com

ホタルイカにご興味のある方は、ぜひホタルイカ祭りで春の味覚をお楽しみ下さい。

参考文献:丹羽一樹 生物発光とルシフェラーゼの科学
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9307/9307_yomoyama.pdf

近江谷克裕 発光生物の光る仕組みとその利用
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/64/8/64_372/_pdf