よく飲食店など外食でカニを食べると「カニ酢」が付いて来ますよね。澄風荘にいらっしゃるお客様も「あれ?酢はないの?」と聞かれる方もいらっしゃいます。
結論から言うと、かにソムリエとしては「新鮮なカニには酢は要らないんです。出汁と塩が一番美味しいんですよ。」とご案内しています。
カニ酢を使う訳
カニ酢を使うのは新鮮でないカニ、言い方は悪いですが古いカニの臭みを誤魔化すために「酢」を使っているのです。昔、流通が悪く内陸部では新鮮なカニが手に入らなかった頃の「知恵」ですね。
ですので、新鮮な活松葉ガニや良い状態で冷凍されたカニには、「カニ酢」は要りません。むしろ、かにの風味や旨みが酢のきつい味で消されてしまいます。澄風荘ではポン酢も使いません。塩と鰹と昆布で丁寧に取った出汁が一番美味しいと思います。
松葉ガニの揚がる地元では酢を使って食べる食べ方は一般的ではないと思います。
出汁とかにの美味しい関係
では、ただのお湯や塩も何も付けずそのまま食べるのが美味しいのかというと、そうではありません。塩や出汁の効いていないカニを食べると…
「あれ、何かが足りない・・・」という表情になります。
出汁や塩の効いたカニを食べると
こういう表情になります。(←ほんまか^^;)
人の味覚はそれぞれですから一概には言えませんが、かにソムリエの経験則では、出汁や塩の効いていない状態ではせっかくの新鮮なカニも「本当の美味しさ」は感じられません。
鰹と昆布の出汁
澄風荘ではかにコースの準備は丁寧に出汁を取ることから始まります。鰹と昆布を使って大鍋で出汁を取ります。
まずは炭火で焼かにを召し上げっていただきます。焼かにには塩が振ってあります。
あまり火を通しすぎず、さっと火が通れば食べごろです。
蟹しゃぶでは特製のだしでさっと通します。 甘味と旨味が身全体に行き渡ります。 やはり火を通し過ぎずに、だしの湯のなかでさっとしゃぶしゃぶしていただきます。
人が旨みを感じるのは―味覚受容体
人が感じる基本5味には、甘味、塩味、苦味、酸味、旨味があります。
鰹の旨味成分はイノシン酸で、昆布の旨味成分はグルタミン酸というのは有名ですね。
実はかにの旨味成分もグルタミン酸なんです。カニにもグルタミン酸が多く含まれています。またカニの甘味はグリシンに由来します。
人が美味しいと感じるのは舌の味蕾という食べ物の味を感じる器官の味細胞が旨味成分や塩味成分の物質をキャッチし、脳に伝達することで、「美味しい」と感じます。
図 味細胞・細胞膜表面の味覚受容体(模式図)
味細胞の細胞膜表面にはそれぞれ味物質(旨味や甘味、塩味の成分)をキャッチするタンパク質で出来た受容体やイオンチャネル型受容体があり、味細胞内のシグナル伝達により味神経が興奮し、味情報が脳へ送られます。
この辺りはマニアックになりそうなので、また別エントリーに書きたいと思います。
旨味の相互作用
かにや出汁の旨味成分(グルタミン酸)はただそれだけでは引き立たちません。塩味と一緒になっていないと「美味しい」とは感じられません。
また旨味は核酸系(イノシン酸など)とアミノ酸系(グルタミン酸など)が合わさると相乗効果で旨味が増します。
つまり、
塩味+旨味(カニ・昆布:グルタミン酸)+旨味(鰹:イノシン酸)= 美味しい
ということでかにの美味しさには塩と出汁が重要ということがわかります。
皆さんも通販などで購入されたかにでカニすきなどを食べる際は、丁寧に出汁を取ってみてください。
新鮮な活松葉ガニを堪能するなら、浜坂漁港のタグ付き活松葉ガニを食べに来てはいかがでしょうか。澄風荘ではもちろん出汁もこだわっています。
〆はかにの旨味たっぷりしみたカニ雑炊
参考文献:岩槻健, 「味覚とGPCR」,p.885-p.887, Vol.50 No.9 2014 ファルマシア
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/9/50_885/_pdf
関連記事:松葉ガニの旨味成分について生化学的に考察した記事を書きました。